高血圧とは?

血圧とは、心臓から全身に送り出された血液が血管の壁を押すときの圧力のことで、心臓が縮んだり広がったりすることで発生します。血圧の値は心臓から押し出される血液量(心拍出量)と、血管が収縮して血流が妨げられる血管抵抗、血管の弾力によって決まります。最大血圧は、心臓が縮み、短い時間で強い圧力がかかっているときの値で、収縮期血圧、上の血圧とも呼ばれています。このとき、大動脈もふくらみ血液がたまります。最小血圧は、心臓が広がっているときの値なので拡張期血圧、下の血圧とも呼ばれています。高齢になると大動脈が硬くなるので、上の血圧は上がりやすく、下の血圧はむしろ低下して、(孤立性)収縮期高血圧になる可能性が高まります。高血圧とは、血圧の値が収縮期血圧 /拡張期血圧のどちらか一方、 あるいは両方が 140/90mmHg以上になる病気で、そのままにしておくと脳卒中や心臓病、腎臓病など重大な病気になることがあります。高血圧は日本人にもっとも多い病気で、国が行った健康調査によると、約4300万人の患者さんがいると推測され、そのうち約 900万人の患者さんが診察を受けています。残り 3400万人のなかには、高血圧でも放置している人、独自に生活習慣の修正をしている人のほか、高血圧と気づいていない人もかなり含まれますので、注意が必要です。

どんな人がなりやすい?

高血圧は、原因がはっきりわからない本態性(ほんたいせい)高血圧と原因が明らかな二次性高血圧に分けられます。日本人の高血圧の約 90%が本態性高血圧で、遺伝や食塩の過剰摂取、肥満などさまざまな要因が組み合わさって起こります。二次性高血圧は、腎臓やホルモンをつくる内分泌腺の病気によって血液量が増えること、血圧を上げるホルモンが体の中に多くなることや、 心臓や血管の病気が原因で起こります。二次性高血圧は、本態性高血圧とくらべると、若い人に多くみられます。

親から子供への遺伝は?

高血圧には家族性の要因が 60%あるといわれています。これは遺伝の要素と、家族で似た環境(食塩摂取量が多い、肥満が多い、運動不足など)にある可能性が考えられます。高血圧の家族歴が強い家庭では高血圧が発症しやすくなりますので、小さいときから減塩と肥満予防に努めて、高血圧の発症を防ぎましょう。また、子供の時から機会をみて血圧を測るようにし、15歳をすぎたら、年に 1回くらいは血圧をチェックすることも大切です。そのような意味でも、病院に行かなくても測ることができる家庭血圧測定は有用です。

症状は?

高血圧は、サイレントキラーといわれるように、自覚症状はほとんど現れませんが、長い時間をかけて動脈硬化を進行させます。症状がないからといって、高血圧を放っておくと、突然脳卒中や心筋梗塞になることがありますし、徐々に腎機能が低下してしまいます。動脈硬化が進行して引き起こされる脳卒中、心筋梗塞や腎臓病などの重大な病気になってから高血圧に気づくことも多いため、注意が必要です。

診断

まずは血圧を測定します。血圧の測定は別の日にも行い、数回の測定結果をもとに高血圧であるかどうかを判定します。血圧測定には診察室で測るものと家庭で測るものとがあります。高血圧の判定では、診察室血圧よりも家庭血圧にもとづくほうが優先されます。日本高血圧学会のガイドラインでは、血圧の値を次の表のように分類しています。診察室で測った血圧が、収縮期血圧 /拡張期血圧のどちらか一方、あるいは両方が 140/90mmHg以上であれば、高血圧と診断されます(家庭血圧値では 135/85mmHg以上を高血圧とします)。

ガイドラインでは、正常(域)血圧を三つに分類しています。いずれも治療の必要はありませんが、なかでも至適血圧であればいちばん心血管病(脳卒中や心筋梗塞など)を発症する可能性が低いとされています。正常高値血圧の方は、現在は正常(域)でも将来高血圧になる可能性が高いため、生活習慣に気をつけ、血圧の測定を続けることが大切です。これまでの研究によれば、至適血圧値のグループにくらべて、血圧値が 140/90mmHgを超えると、心血管病になる可能性は明らかに高まります。そのため140/90mmHg以上を高血圧と定めています。また、高齢者に多い傾向として、収縮期血圧が 140mmHg以上なのに拡張期血圧が 90mmHg未満の場合があります。これを「(孤立性)収縮期高血圧」といい、治療が必要です。

家庭血圧測定

血圧を評価する方法には、①病院・医院などで測る診察室血圧、②自宅で自分で測る家庭血圧、 ③病院・医院で特殊な機器をつけて30分または1時間ごとに血圧を測る24時間血圧(この場合、日中、夜間、24時間それぞれについて機器が出してくれる平均値を用います)の三つがあります。一般的には診察室血圧と家庭血圧が用いられ、座位で測定します。通常、病院に行くと緊張して血圧が上がることが多いため、家庭血圧は診察室血圧より収縮期、拡張期ともに 5mmHg低めです。最近の研究で、心血管病(脳卒中や心筋梗塞など)の発症を予測する方法として、診察室血圧よりも家庭血圧の方が優れていることがわかってきました。このことは、高血圧の診断でも、診察室血圧より家庭血圧の方が信頼性が高いことを示しています。そのため、高血圧学会のガイドラインでも、高血圧の判定では、診察室血圧よりも家庭血圧にもとづくほうを優先するとしています。家庭血圧を診断や治療に上手に用いることで、正確に診断することや、治療の効果をより高めることができます。家庭血圧は、朝(起床後 1時間以内、排尿後、食前)と夜(就寝前)の1日2回測定します。朝・晩とも血圧は 2回測って、その平均の血圧値をとることになっています。測った血圧値はすべて血圧手帳などに記録しておきましょう。家庭血圧の評価で大切なことは、診断でも治療時においても 5~ 7日間の平均値で判断することです。また血圧計は、上腕にカフを巻くタイプを用いるようにしてください。

白衣高血圧とは?

血圧はいろいろな条件で変動します。家庭や職場などではいつも135/85mmHg未満で正常(域)血圧である人が、診察時には緊張して血圧が上がり、高血圧基準である 140/90mmHgを超えることがあります。近年、家庭血圧計が普及し、多くの人が家庭で血圧を測るようになりました。そこで、診察時は高血圧でも家庭血圧は正常を示す人と、診察時・家庭血圧両方とも正常な人を比較して心血管病(脳卒中や心筋梗塞など)の発症を調べたところ、両者に差がないことがわかりました。つまり、家庭血圧を測定して多くの時間帯で正常血圧であれば、 診察時のみ血圧が高くても治療する必要はないということです。この診察時のみ(白衣の前では)緊張して血圧が高くなる例を白衣高血圧と呼び、降圧薬による治療は必要のないタイプとされています。ただし、白衣高血圧は将来、治療が必要な高血圧になる可能性が高いので、血圧測定は定期的に行うようにしましょう。家庭血圧測定は朝・夜の 2回測定が原則ですが、職場やその他の活動で血圧が高くなる場合もありますので、朝・夜以外にも血圧を測ってほかの時間帯でも血圧が正常であることを確認してください。

家庭血圧は正常なのに降圧薬が必要だと言われた。どうすればいいの?

高血圧学会のガイドラインでは、高血圧の判定では、診察室血圧よりも家庭血圧にもとづくほうを優先するとしています。家庭血圧は、朝・就寝前ともに収縮期血圧/拡張期血圧の両方が135/85mmHg未満であれば正常(域)血圧とみなし、降圧薬による治療は原則として必要ありません。ただし、その場合でも朝と就寝前以外の時間帯、仕事中やストレスの多いときなども測ってみてください。どの時間帯も135/85mmHg未満であれば降圧薬の必要がないと考えてよいでしょう。ただし、糖尿病とタンパク尿(+)の慢性腎臓病では125/75mmHg未満で正常(域)血圧となりますので注意してください。家庭血圧がこのように正常であっても、診察室では高血圧を示す方がいます。このような方の例は白衣高血圧といって、降圧薬による治療は、通常は必要ありません。自分がそれに当てはまると思ったら、家庭血圧の測定結果をかかりつけ医に見せて、相談してください。家庭血圧の記録を見せて相談しても降圧薬が必要と言われた場合は、セカンドオピニオンを受けたい旨を医師に伝え、他の医師(できれば高血圧の専門家)に相談してみるのもよいでしょう。

仮面高血圧とは?

白衣高血圧とは逆で、健康診断や診察時は正常なのに家庭や職場での血圧が高い人がいます。そのような例は、診察時には高血圧がかくれていることから仮面高血圧と呼ばれています。仮面高血圧の場合、診察時以外の多くの時間帯で血圧が高く血管に高い圧力がかかり続けるため、血管に悪影響を及ぼします。実際に心血管病(脳卒中や心筋梗塞など)の発症について調べたところ、仮面高血圧の人は診察時・家庭血圧の両方とも高い人と同じくらい心血管病を発症していることがわかりました。仮面高血圧は、治療が必要なタイプの高血圧です。喫煙者、精神的ストレスの多い人、身体的活動度の高い人、アルコール多飲者は仮面高血圧になりやすいので、意識的に家庭や職場で血圧を測るようにしましょう。
仮面高血圧は、高血圧と診断されて薬を服用している人にも当てはまる場合があります。その場合は治療が不十分であることを示しています。高血圧治療は 24時間にわたって正常血圧であることが望まれます。診察時の血圧が正常でも、早朝などそれ以外の時間帯で血
圧が高い場合は、かかりつけ医とよく相談し、あらゆる時間帯で正常血圧となるよう取り
組みましょう。

薬以外の治療法

本態性高血圧では、減塩、運動、肥満是正などの生活習慣を修正する治療法が基本になります。とくに食塩は血液量を増加させて血圧を上げたり、心臓に負担をあたえるので減塩することが重要です。肥満者における減量は血圧を明らかに下げますし、毎食野菜を多く摂取することも大切です。はじめに薬を使わない治療で血圧のコントロールを試み、改善しなかった場合には薬による治療を開始します。血圧がかなり高い人や心血管病の危険性が高い人、糖尿病、脳卒中、心臓病や腎臓病がある人は、すぐに薬による治療を開始する場合もあります。二次性高血圧では、高血圧の原因となる病気の治療が基本となります。

血圧はどこまで下げたらよいか?

高血圧の治療は、将来起きる可能性のある心血管病(脳卒中や心筋梗塞など)を予防するために行います。治療の目標としては、 140/90mmHg未満を目指します。ただし、糖尿病や腎臓病などのある方はさらに低くする必要があります。かかりつけ医と相談し、目標に向けてがんばりましょう。

食塩制限と高血圧

食塩制限は血圧管理に有効です。とくに食塩摂取の多い日本人では、減塩の降圧効果が大きいです。高血圧の人は、食塩を 5g/日ほど減らせば、血圧は 5~6 mmHg下がるといわれています。もちろん高血圧になる前から食塩制限を行うことは、高血圧の発症予防につながります。とくに高血圧の家族歴の強い人では、血圧上昇前からの減塩が推奨されていますし、高血圧になる要因の少ない人でも減塩は有効です。また小さいときから食塩の摂取量を少なくしておけば、加齢による血圧上昇を抑え、高血圧になる危険性を極めて低くすることができます。6g/日未満が無理でも、少なくとも厚生労働省がすすめる男性8g/日未満、女性7g/日未満をまずは目標として取り組みましょう。

薬による治療

薬による治療は、生活習慣を改善しても血圧が下がらない場合に行います。血圧を下げる薬には多くの種類があり、その中から患者さんの血圧のレベルや状態、その他の病気の有無などによって使用する薬を決めていきます。いくつかの薬を組み合わせて服用したり、 服用する量や時間帯が薬によって異なることもあるため、医師の指示にしたがい、途中で自分の判断でやめないようにしましょう。高血圧のほかに病気がある場合、病気によっては使ってはいけない降圧薬、あるいは慎重に使わなければならない降圧薬があります。自分がかかっている病気について、医師に正確に伝えるようにしましょう。

降圧薬の副作用

降圧薬を飲みたくないという患者さんのなかには、 薬の副作用が怖いからという人もいます。たしかに降圧薬だけでなく、すべての薬には副作用が生じる可能性があります。薬の開発にあたっては、副作用の程度や頻度も十分に確認され、そのうえで、効果が確実にあり、副作用の少ないものが薬剤として認められています。副作用が強かったり、少なくとも重篤なものがある場合には認可されません。効果が副作用を上回ると考えられる薬が認可されているのです。頻度が少ないとはいえ、副作用がでる可能性があるのは事実です。降圧薬を開始して、それまでになかった症状がでたら、まずは薬の服用をやめてかかりつけ医に相談してください。軽度な副作用でも、長期間使用する可能性の高い薬剤では、ほかの薬剤に変更するのが原則です。

薬を飲み忘れた時は?

降圧薬は、1日1~3回服用することで血圧が管理されます。薬の飲み忘れが多いのは昼と夜です。飲み忘れた場合は次の表を参考にしてください。くれぐれも2回分を一度に服用しないでください。

以上のような服薬を忘れた場合の対処は、必ずしもすべての人に当てはまるものではありません。できるだけ家庭血圧を測り、そのうえでかかりつけ医と相談して決めることをおすすめします。服薬を忘れた場合にどうするかも、医師と相談しておくとよいでしょう。

血圧の薬はやめることができる?

高血圧の薬は、一度飲みだすと一生飲み続けなければいけない、と考えている人が多いようです。たしかに血圧を下げる薬は高血圧の原因を治すわけではありませんので、薬をやめると元に戻って高血圧になる可能性は大きくなります。高血圧の患者さんで、降圧薬をやめることができる人はいますが、それには二つの条件が必要です。一つは、薬を使っている条件下で血圧がしっかり正常に下がっていること、もう一つは、減塩・運動・肥満是正など生活習慣の改善ができていることです。もちろん、家庭血圧がはじめから正常で診察室血圧だけが高い白衣高血圧では降圧薬は用いないので、家庭血圧を測定して確認することが重要です。生活習慣の改善をしっかり行うと、Ⅰ度の高血圧(140~159/90~99mmHg)では、1薬剤で低用量の場合、20~30%の患者さんで降圧薬をやめることができます。2薬剤以上を飲んでいる場合でも薬の減量が可能となります。一方で、生活習慣が悪くなれば高血圧に戻ります。また加齢とともに血圧は上昇しますので、血圧の定期的なチェックが必要です。

人間ドック学会の基準値について

人間のからだにとって血圧とは、酸素や栄養分を組織や臓器に送るための重要なしくみです。血圧は、高くても短い期間でみると症状はありませんし、診察時にも異常はみられません。しかし、高血圧が何年も続くと血管に悪影響が及び、将来的に動脈硬化による心血管病(脳卒中・心筋梗塞など)や腎臓病を起こし、大きな問題になります。高血圧は、いま症状があるかどうかで判断する病気ではないのです。最近、人間ドック学会から、150万人のドック健診者の中からとりわけ健康な人約1万5000人を選び出し、その人たちの血圧値に基づいて、正常血圧、高血圧を分けようとする考えが報告されました。その値がこれまでの高血圧基準よりも高いことから、混乱が起きています。肝臓病や癌などの病気があるかないかを見る検査では、健常者の値を正常値として、それを超えたら異常値とする方法が用いられます。しかし、高血圧の判定ではそのような方法は用いません。日本をはじめ世界各国で行われた長期間の追跡研究の結果から、どの血圧値を超えると将来心血管病や腎臓病を起こすかがわかってきました。そして、それらの研究結果にもとづいて高血圧の基準は定められています。正常(域)血圧のなかの至適血圧(120/80mmHg未満)より血圧が上昇すると、脳卒中、心臓病、腎臓病を将来起こす危険性がしだいに増加してきます。そして、140/90mmHg以上になると、至適血圧の人よりも脳・心・腎の病気を起こす可能性が明らかに(3~4倍)増えるので、日本をはじめ世界的にも、140/90mmHg以上を高血圧としています。人間ドック学会の示した血圧基準は、将来の病気の発症を念頭に入れていませんし、その報告のために選ばれたとりわけ健康な方以外の99%の人についてもまったく述べていません。また、人間ドック学会の基準値作成方法は、高血圧の診断には用い得ない方法であることを人間ドック学会も認めており、すでに訂正されていますので、くれぐれも誤解のないよう、ご理解いただきたいと思います。