心臓病と脳卒中を合わせると日本人の死因の1/3を占めますが、いずれも動脈硬化が原因となって起こることが多くなっています。動脈硬化をすすめる危険因子としては、高血圧・喫煙・糖尿病・脂質異常症(高脂血症)・肥満などがあげられています。これらの危険因子はそれぞれ単独に動脈硬化を促進すると考えられていますが、それぞれの程度が低くても、これらの危険因子が重なれば、動脈硬化によって起こる心臓病や脳卒中の危険が高まることがわかっています。近年、日本人にも肥満の人が増えてきていますが、肥満のうちでもおなかに脂肪がたまる内臓脂肪型肥満(内臓脂肪蓄積)が動脈硬化を進行させる原因のひとつであることがわかってきました。内臓脂肪蓄積があれば、糖尿病や高脂血症・高血圧などがおこりやすくなり、しかもこれらが重複すると、その数が多くなるほど、動脈硬化を進行させる危険が高まるという考え方です。こうしたことから、内臓脂肪蓄積に加えて、空腹時血糖や血清脂質(HDLコレステロールと中性脂肪)・血圧が一定以上の値を示している場合を「メタボリックシンドローム」として、取り上げるようになりました。日本では平成20年(2008年)から「特定健診・特定保健指導」の中で、この考え方をとりいれ、新たに内臓脂肪蓄積を診断するために「ウエスト周囲径」の測定が検査項目に加わりました。なお特定健診・特定保健指導では、メタボリックシンドロームといわず、「内臓脂肪症候群」の名称を用いています。食べ過ぎや運動不足といった生活習慣の乱れなどから、おなかに内臓脂肪が蓄積される「内臓脂肪型肥満」になっており、加えて中性脂肪が高い・HDLコレステロールが低い、血圧が高い、血糖値が高いという項目のうちいずれか2つ以上が重なっている状態を指します。2005年に日本内科学会ほか8学会が合同で診断基準を決めました。

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日本人が死亡する三大原因は、悪性新生物(がんなど)、心疾患(心臓病など)、脳血管疾患(脳卒中など)です。そのうち心疾患と脳血管疾患は、動脈硬化(血液がドロドロになるのに伴って、血管も硬くなって詰まりやすくなる状態)が要因となる病気です。メタボリックシンドロームの危険性は、自覚症状がほとんどない点にあります。本人はとても元気で病気のことは頭にありませんし、生活習慣が好ましくないということも認識していません。しかしこの間にも動脈硬化はどんどん進行しているのです。健康診断を受ければ、高血圧や糖尿病・脂質異常が始まっていると指摘されます。しかしこの段階でもまだ症状はほとんどなく、危険な状態が進行していると気づかない人が多いのです。メタボリックシンドロームの原因は生活習慣にあるのですから、それを改善しなさいと注意されてもなかなかそれを始めようとしません。こうして本人が気づかない、あるいは無関心でいるうちに、動脈硬化が進行して、ある日突然心臓発作や脳卒中をおこし、そのまま死への道をたどる人も少なくありません。そのためには元気だからといって健診を受けないのではなく、元気なときにこそ健診を年に一度は必ず受けることが、きわめて大切です。

肥満には2タイプ

肥満は皮下脂肪型肥満と内臓脂肪型肥満に分かれます。内臓脂肪型肥満は、腹腔内の腸間膜などに脂肪が過剰に蓄積しているタイプの肥満で、下半身よりもウェストまわりが大きくなるその体型から「リンゴ型肥満」とも呼ばれます。男性に多く見られるのも特徴です。またBMIが25未満で、肥満ではないものの内臓脂肪が蓄積している場合もあり、俗に「隠れ肥満症」と呼ばれることがあります。この内臓脂肪型肥満を高血糖・脂質異常・高血圧などの上流に置き、内臓脂肪の蓄積を防ぐことが心臓病をはじめとする生活習慣病の予防につながる、と考えたのがメタボリックシンドロームの概念です。このためメタボリックシンドロームの診断基準では、内臓脂肪の蓄積を必須項目としています。この場合の内臓脂肪蓄積とは、CTスキャンでおへその位置で体を輪切りにしたときの内臓脂肪面積が100cm2を超えているものを指し、これに相当する簡便な目安としてウェスト周囲径(男性85cm以上、女性90cm以上)が採用されています。

内臓脂肪が招くメタボリックシンドローム

内臓脂肪などを蓄積する脂肪組織は従来、余ったエネルギーを貯蔵する場所として考えられてきました。ところが近年の研究によって、脂肪組織の役割はそれだけでなく、さまざまな人間の生体維持にかかわる物質(アディポサイトカイン)を合成・分泌し、血液中の糖質や脂質、あるいは血圧のコントロールなどに大きな影響を与えていることがわかってきました。しかも、内臓脂肪が必要以上に増えると、こうした生理活性物質の分泌に異変が起こりやすくなります。その結果、次のようなさまざまな悪影響が出てきます。

  • インスリン抵抗性(インスリンの働きがよくない状態)を悪化させる。
    ⇒血液中の糖質を増やし、血糖値を上昇させる原因となる。
  • 蓄積された脂肪が分解されて、再び血液中に入りやすくなる。
    ⇒血液中の中性脂肪やコレステロールを増やす原因となる。
  • 血圧を維持する物質の機能が低下し、反対に上昇させる物質が分泌される。
    ⇒血圧の上昇をまねく原因となる。

そのほか、内臓脂肪が増えると、超悪玉(小型LDL)コレステロールが増加します。また私たちのからだを防御する、さまざまな生理活性物質にも分泌異常が生じます。その結果、動脈硬化を促進したり、血栓をつくりやすくするなど、複合的な影響が出ることもわかってきています。

治療

・食生活の改善
メタボリックシンドロームの4つの危険因子(肥満、高血圧、高血糖、脂質代謝異常)に共通しているのは、食べすぎや飲みすぎによるカロリー過多と、運動不足が主な原因となって発症することです。とくに食生活においては、肥満(内臓脂肪型肥満)の解消を目標に、食事のメニューや方法を見直しましょう。

1.「腹八分目」と「和食」
自分では普通に食べているつもりでも、30歳を超える頃から日常の消費エネルギーが減ってくるため、知らないうちに食べすぎの状態になりがちです。また現代の食事メニューには、肉類や揚げ物など高カロリーのものが多いため、カロリーのとりすぎにもなりがちです。さらに運動をあまりしないと、食事から得た余分なエネルギーが内臓脂肪として蓄積されることになります。こうした状態を改善するには、まず「腹八分目」を心がけること。早食いをやめ、ひと口ごとに箸を置く、食事の途中で休憩する、カボチャやキノコ類など腹持ちのする野菜などを多くとる…といった工夫をしましょう。また、肉類や揚げ物を食べる回数を少し減らし、メニューの基本を和食にして、全体のカロリーを低めにしましょう。

*1日の適正な総摂取カロリーの目安
総摂取カロリー=標準体重“×25~30kcal
“標準体重=身長(m)×身長(m)×22
(例)身長165cmの場合
標準体重は1.65m×1.65m×22=約60kgとなり、1日の適正な総摂取カロリーは60kg×25~30kcal=1500~1800kcalとなります。
(肥満気味の方、高齢者、女性、運動量の少ない人は低めの総摂取カロリーを目安としましよう)

2.野菜で血管の酸化防止
野菜に多くふくまれているビタミンやカロチノイド(ポリフェノールの一種)などには、油脂成分の酸化を防ぐ作用があり、動脈硬化を抑える働きをします。とくに緑黄色野菜には、抗酸化作用をもつ成分が多いので、カボチャ、トマト、ピーマン、ニンジン、チンゲン菜、ブロッコリーなどを積極的に食べるようにしましょう。

3.自分の病気に合わせたメニュー
上記のことを基本としながら、メタボリックシンドロームの場合、自分がどの病気になっているかによって、食事のメニューなどを重点的に工夫する必要があります。

  • 血圧が高めなら、原因となりやすい塩分をひかえめにし、野菜類を多くとるようにする。
  • 血糖値が高めなら、全体のカロリーを抑え、また間食をひかえる。
  • 中性脂肪値が高めなら、慢性的な食べすぎに気をつける。
  • コレステロール値が高めなら、コレステロールの多い食品(鶏卵、魚卵、ウナギなど)を食べすぎないようにする。

こうした工夫は、年齢や性別などによっても少しずつ違ってきます。メタボリックシンドローム、ある
いはその予備軍と診断された場合、医師から注意すべきことの指導を受け、とくに食事の内容な
ども相談しておくことが大切です。

・生活習慣の改善
内臓脂肪型肥満の人には、運動をほとんどしていないケースが多くみられます。また男性の場合には、タバコを吸っている人も少なくありません。
生活の中からこうしたリスクを少しでも減らし、血圧や血糖値などを適正にコントロールすることを心がけましょう。

1.運動療法
内臓脂肪を減らすには、ウォーキングやアクアサイズ(水中運動)、軽めのジョギング、エアロバイク(固定式の自転車こぎ)などの有酸素運動が適しています。ただし、メタボリックシンドロームの場合は、すでに血圧や血糖値などが高く、動脈硬化を起こしている可能性もあります。いきなり運動を始めるとかえって危険なこともあるので、かならず医師に相談してから始めるようにしましょう。

2.軽めの運動
運動の基本は有酸素運動ですが、心臓や血管にあまり負担をかけない軽めの運動…たとえば散歩やウォーキングなどから、少しずつ始めるようにします。いままで運動をまったくしていなかった人にとっては、散歩やゆっくりしたウォーキング程度の運動でも、続けると効果があります。大切なことは、少しずつでもいいので、できるだけ毎日続けることです。血圧や体脂肪率などを自分でも測定しながら運動を続けると、効果が確認できて励みになります。

*運動の強さの目安
運動の強さの目安は、軽く汗ばむ程度がよいとされています。
目標脈拍数=最大脈拍数(220-年齢)×50%程度
一般には50%程度の強さがよいとされています。あらかじめ医師に相談しましょう

*運動の時間の目安
脂肪が燃焼を始めるのに、運動をはじめて20分くらい必要なため、20分以上続けるのが理想ですが、エスカレーターを使わず階段を利用したり、暇を見つけての短い時間運動もカロリーの消費が全体で増えるため効果があります。

3.タバコ
喫煙は、血管を収縮させるだけでなく、活性酸素を増やし、動脈硬化を促進する大きな要因となります。メタボリックシンドロームそのものを悪化させる要因でもあるので、本数を減らすか、できれば禁煙をしましょう。

4.ストレス
知らないうちに、ストレスで緊張する毎日を送っていませんか。ストレスは血圧を上げるだけでなく、血管を収縮させ、心疾患の引き金ともなります。ストレスを感じたら、リラックスできること、楽しめることを見つけ、早めに解消するようにしましょう。