B型やC型肝炎ウイルス感染、アルコール、非アルコール性脂肪性肝炎などによって肝細胞の破壊と再生が繰り返されると、肝臓が線維化していきます。さらに肝細胞が線維に囲まれることにより、肝臓の表面はでこぼこになり、組織は硬くなって本来の機能を十分に果たせなくなります。このような状態を「肝硬変」といいます。線維化が進んだ肝臓は元に戻らないため、肝硬変はあらゆる慢性肝疾患の終末像といえます。
原因
- ウイルス性(B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス)
- 自己免疫性(自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変)
- 非アルコール性脂肪性肝炎
- アルコール
- 代謝性(ヘモクロマト−シス、ウイルソン病など)
- その他
肝硬変の程度の分類
肝機能をあらわすチャイルド分類が用いられています(表1)。この5項目の点数がすべて1点なら合計5点、すべて3点なら合計15点になりますが、5、6点をチャイルドA、7~9点をチャイルドB、10~15点をチャイルドCと分類します。点数が高いほど肝機能が重症となります。
症状
- くも状血管拡張:首や前胸部、頬に赤い斑点ができる。
- 手掌紅班:掌の両側が赤くなる。
- 腹水:下腹部が膨満する。大量に貯まると腹部全体が膨満する。
- 腹壁静脈拡張:へその周りの静脈が太くなる。
- 黄疸:白目が黄色くなる。
- 羽ばたき振戦:肝性脳症の症状のひとつで、鳥が羽ばたくように手が震える。
- 女性化乳房:男性でも女性ホルモンがあるが、肝臓での分解が低下するため乳房が大きくなる。
- 睾丸萎縮:男性で女性ホルモンが高くなるため睾丸が小さくなる。
血液検査
- アルブミン値:肝臓で作られるタンパク質の代表。肝硬変になると多くの場合低下する。
- 血小板:止血の際に働く血球の代表。肝硬変になると低下することが多い。
- コリンエステラーゼ:肝臓で作られるタンパク質。肝硬変では低下する。
- プロトロンビン時間:血液が固まる時間を表す。肝硬変では血液凝固因子が低下するため延長する。
- アンモニア:腸内細菌で産生されるが、肝硬変では分解が低下するため増加する。
- 総ビリルビン:黄疸を表す指数。肝硬変で機能低下がおこると上昇する。
画像診断
- 腹部超音波:
肝硬変かどうかを超音波だけで診断することは困難ですが、進行すると肝表面の凹凸が明らかになり、肝臓の内部が粗く描出されます。肝臓が硬くなると、腸管からの血液を肝臓に運ぶ門脈の圧力が高くなるため、シャントと呼ばれる異常血管の発達を認めることがあります。腹水の有無や脾臓腫大の程度が分かります。 - 腹部CTスキャン:
肝硬変かどうかをCTスキャンだけで診断することは困難ですが、肝表面の凹凸の程度、肝臓の右葉と左葉の大きさのバランスなどを調べます。造影剤を使用すると、肝硬変で発達することの多いシャントと呼ばれる異常血管の存在がよく分かります。腹水、肝腫瘍、脾臓腫大などの有無を診断します。 - 腹腔鏡:
肉眼的に肝臓を観察し、肝硬変かどうかを直接診断することができます。 - 肝生検:
肝臓に細い針を刺してごく一部を採取して、顕微鏡で肝硬変かどうかを診断します。
治療
肝硬変そのものを治療できる薬剤はほとんどありません。B型肝炎ウイルスが原因の場合には、抗ウイルス薬を内服することによって肝機能の改善が期待できます。C型肝炎ウイルスが原因の場合には、肝機能が良好な肝硬変(代償性肝硬変と言います)に対して、インターフェロン単独治療、インターフェロン・リバビリン併用治療、ペグインターフェロン・リバビリン併用療法、さらに2014年以降にはチャイルドAに限られますが、インターフェロンフリーの経口剤治療が健康保険で認められています。肝硬変では分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)が低下するため、これを薬として補充することによって肝臓でつくられるアルブミンなどのタンパク質が改善します。
*肝移植→腹水や黄疸が一般的な治療によって改善しない場合には、基準を満たせば肝移植を受けられるようになりました。
合併症(肝癌は除く)
(1) 食道静脈瘤・胃静脈瘤
肝臓が硬くなり小腸や大腸から流れ込む門脈と呼ばれる血管の圧力が高くなると、食道や胃の周りに逃げ道ができます。これが静脈瘤です。静脈瘤はいったん破裂すると消化管の中に大出血を起こすため、吐血や下血がみられます。出血の程度によっては生命に危険がおよぶこともあります。
*出血の危険の予知
内視鏡検査(胃カメラ)で食道静脈瘤に赤い斑点(Red Colorサイン)がみられた場合には近い将来に破裂する危険が大きいことを意味します。
*予防的治療
食道静脈瘤を内視鏡を用いて輪ゴムで結紮(けっさつ)するか、硬化剤を静脈瘤内に注入し固めることで破裂しないようにすることができます。静脈瘤は再発することが多いので、定期的な内視鏡検査を受けること、必要に応じて予防的治療を繰り返すことが重要です。
(2) 肝性脳症
大腸内の細菌によってアンモニアなどの老廃物が作られ、門脈を通って肝臓へ運ばれます。通常は肝臓の細胞で処理されますが、肝硬変では肝機能低下のため十分な処理能力がなくなることと、門脈からの逃げ道を通って肝臓を素通りする結果、アンモニアなどの老廃物が血液中にたまり、脳のはたらきを低下させると肝性脳症が起こります。
*肝性脳症(1度~4度)
1度:軽度の障害なので気がつきにくい。昼夜逆転などの症状がある。
2度:判断力が低下する。人や場所を間違えるなどの症状がある。
3度:錯乱状態や混迷に陥る。
4・5度:意識がなくなる。
日常生活でよく気をつけることとして、1)便秘にならないこと、2)風邪などの感染症がきっかけになるため、手洗いやうがいを励行すること、3)タンパク質を摂り過ぎないこと、4)肝臓の負担にならないよう脱水予防などを行って下さい。
<治療法>
排便対策:ラクツロースなどの二糖類の薬を内服して便秘を予防する。
分岐鎖アミノ酸を含む内服治療、腸内細菌を死滅させる抗生物質を飲むなど。
(3) 腹水
肝硬変では血液中のアルブミンが低下し、門脈の圧力が高くなるために発生します。少量の場合には下腹部が膨満する程度ですが、大量の腹水では呼吸困難を起こすこともあります。
<治療法>
1) 減塩食:1日に摂取する塩分量を減らす。
2) 利尿薬内服:利尿薬を内服する。
3) アルブミンの点滴投与
4) 腹水ドレナージ
*呼吸困難感や腹部膨満感が非常に強い場合には、針を刺して腹水を抜き(腹水ドレナージ)ますが、腹水の溜まる原因を十分に治療しなければ、いったん腹水を抜いても、またすぐに溜まります。