膵臓に繰り返し炎症が起こり、次第に膵臓の細胞が破壊され線維に置き換わり、膵臓全体が硬くなって萎縮していく病気です。厚生労働省難治性疾患克服研究事業難治性膵疾患に関する調査研究班の全国調査によると、2011年1年間に医療機関を受診した慢性膵炎患者さんの数は約67,000人、人口10万人あたりの数は52.4人と推定されています。また、この1年間に新たに慢性膵炎を発病した患者さんは約18,000人、人口10万人あたり14.0人と推定されています。慢性膵炎患者さんの数は年々増加しています。

図1.人口10万人当たりの慢性膵炎推定患者数(有病患者数)と推定発病患者数の推移

図1.人口10万人当たりの慢性膵炎推定患者数(有病患者数)と推定発病患者数の推移

どのような人に多い?

慢性膵炎は男性に多い病気で、男性:女性の比率は4.6:1と男性が女性の4倍以上です。小児から高齢者まで全ての年齢に発病しますが、男女とも50歳代に発病する患者さんが多い病気です。飲酒は慢性膵炎の発病や進行と強い関係があると考えられています。飲酒が慢性膵炎発病の原因と考えられる患者さん(アルコール性慢性膵炎)は、慢性膵炎全体の約2/3を占めています。また、喫煙も慢性膵炎と強い関係があり、慢性膵炎患者さんの喫煙率は、一般人の約2倍です。慢性膵炎患者さんでは飲酒と喫煙の両方を行っている人が多く、お酒を断つこと(断酒)と禁煙が慢性膵炎に対する非常に重要な治療です。

原因

慢性膵炎の原因には男女差があることがわかっています。習慣的な飲酒が原因と考えられるようなアルコール性慢性膵炎患者の割合は、全体では67.5%を占めますが、男性に限るとさらに多く75.7%、それに対し女性では29.5%でした。女性は男性に比べ大量飲酒者自体が少ないのですが、男性より少ない飲酒量で慢性膵炎を発症すると考えられています。飲酒と慢性膵炎の関係は、このように確実ですが、一方で大酒家のごく一部にしか慢性膵炎が発病しないことが分かっており、飲酒だけでなく体質(遺伝的素因)が発病に関係していると考えられています。飲酒以外の稀な原因として膵損傷や高脂血症などが知られています。原因が全く分からない慢性膵炎(特発性慢性膵炎)は全体の20.0%を占め、男性では13.4%、女性では51.0%を占めています。つまり、この病気の原因の多くがまだよく分かっていません。最近、喫煙が慢性膵炎を発症させ、進行させるリスクであることがわかってきました。慢性膵炎の多くは飲酒・喫煙という生活習慣と深く関係していると考えられています。

図2.慢性膵炎の成因の男女差

症状

典型的な慢性膵炎の初期では、上腹部痛や腰背部痛などが主な症状で、その他、吐き気や嘔吐、腹部膨満感、全身倦怠感 などがあります。慢性膵炎が進行し、膵組織が破壊されると腹痛は一般に軽減~消失しますが、膵臓の働きが低下して、下痢、脂肪便、体重減少、口渇・多尿、糖尿病などの症状が出現します。稀に痛みのない患者さんもいますが、約80%の患者さんが腹痛を訴えます。特徴的なのは、痛みが食事の直ぐ後ではなく、数時間後(時には12~24時間後)にあらわれることで、暴飲暴食、特に脂っこい料理やケーキなどの脂肪食やアルコール摂取が引き金になります。

治療

・基本的な治療法:
(1) 生活習慣の改善: 症状が出現する原因、あるいは誘因を除去することが重要です。最も重要なことは、飲酒を永続的にやめ、酒を断つこと(断酒)と、禁煙です。断酒の実現には、家族、社会の協力が必要です。腹痛を繰り返す患者さんは、食事中に脂肪分を減らすこと(1日量で脂肪30〜35g)が重要です。また、1回の食事量を少なくし、1日に4〜5回摂取する場合もあります。腹痛がない場合には、過剰な脂肪制限は栄養障害の原因となりますので、消化酵素薬の内服を行いながら1日40〜60gの脂肪を摂取します。ストレスも慢性膵炎に悪影響を及ぼしますので、心身の安静を守りストレス・不安の解消などに務めることも重要です。
*「生活習慣の原則」

  1. 断酒・禁煙
  2. 腹痛があるとき:脂っこい食事を控える(脂肪30〜35g/日)
  3. 腹痛がないとき:過剰な脂肪制限はしない

(2) 保存的治療: 腹痛に対しては鎮痙薬、鎮痛薬を内服します。腹痛の程度が比較的軽度の場合には、高力価の消化酵素薬や蛋白分解酵素阻害薬の内服を行います。消化吸収障害(下痢、脂肪便)に対しては高力価の消化酵素薬と胃酸分泌抑制薬の内服を行います。慢性膵炎が原因で発症した糖尿病(膵性糖尿病)に対しては、一般にインスリン注射を用いて血糖をコントロールします。
・特殊治療:
膵管の狭窄や膵石が原因で膵液流出障害がおこり、そのために保存的治療でコントロールできない疼痛を生じている場合、腹痛が持続あるいは繰り返す場合、膵仮性嚢胞や膵性胸・腹水などの特殊な病態の場合の治療法です。内視鏡的な治療法としては、膵管内にチューブ(ステント)を入れて膵液の流れを良くすることや、膵石を取り除くことが行われています。内視鏡的に取り除けない膵石に対して、体外衝撃波結石破砕(ESWL)を行うこともあります。膵臓の病変に対する手術(切除あるいはドレナージ術)が長期的に経過の良い治療法とされています。

経過

慢性膵炎は膵臓の炎症を繰り返し起こしますので、一生つきあわなければならない病気です。しかし、治療をきちんと受けていれば死に至ることはありません。慢性膵炎患者さんを1994年から2002年までの8年間追跡調査したところ、アルコール性慢性膵炎患者さんの予後は非アルコール性の患者さんに比べて悪い傾向にありました。アルコール性慢性膵炎では、一般的な治療に加えて断酒をすることが予後の改善に重要です。慢性膵炎患者の標準化死亡比(一般集団との死亡の比率)は1.55と高く、死因別では悪性新生物による標準化死亡比は2.02と一般集団よりも有意に高率で、特に膵癌は7.84と著しく高い結果でした。慢性膵炎の患者には年率約4%の割合で糖尿病が発症します。さらに、膵癌をはじめ種々の悪性腫瘍を合併する頻度が高い疾患です。