慢性肝炎は、肝臓の細胞(肝細胞)が長期間にわたり持続する炎症によって壊れる病気です。次第に肝臓に線維が増加して(線維化)硬くなり、肝硬変となり、肝癌を合併する場合もあります。わが国の慢性肝炎の90%がB型やC型の肝炎ウイルスの感染によるものです。慢性肝炎に特有の症状はなく、多くの場合、血液検査の異常で発見されます。慢性肝炎と診断されたら、さらに精密な血液検査により原因を明らかにして、病気の程度に応じた治療を受ける必要があります。

慢性肝炎の種類

わが国の慢性肝炎の約70%はC型肝炎ウイルス、15~20%がB型肝炎ウイルスによるものです。その他におもに女性にみられる自己免疫肝炎があります。その原因はウイルスの感染ではありません。

どうして起こるの?

ウイルス性慢性肝炎は、肝臓にウイルス(B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス)が常在し、炎症を起こし続けるために生じます。もし、ウイルスを駆除できれば、慢性肝炎は治癒に向かいます。自己免疫性肝炎の原因は不明ですが、自己防衛のために働く免疫の力が自分の肝細胞を誤って異物とみなして攻撃するために起こるという説が有力です。

診断

慢性肝炎は、まったく症状がないことが多いため、診断は血液検査によってなされます。血液検査の結果、GOT(AST)、GPT(ALT)の値が高いときは、肝臓障害が考えられます。GOT、GPTは、肝細胞に含まれている酵素で、肝細胞が壊れると血液中に出てくるのです。肝臓障害の原因を調べるには、肝炎ウイルスの検査が重要です。肝臓障害が疑われたときは、必ず血液中の B型肝炎ウイルスの抗原(HBs抗原)、C型肝炎ウイルスの抗体(HCV抗体)を検査して下さい。HBs抗原が陽性であればB型慢性肝炎、HCV抗体が陽性であれば C型慢性肝炎の可能性があります。慢性肝炎が疑われたら、超音波検査などの画像検査で、肝臓の形や、脾臓の大きさを観察します。診断を確実にするために肝生検が行われてきました。これは、小さな針を肝臓に刺して肝臓のごく一部を採取して、顕微鏡で直接観察する検査です。しかし、肝生検には入院が必要なので、全ての患者さんに行うわけにはいきません。肝生検ができない場合には血小板数や超音波検査などから、慢性肝炎の程度(軽度、中等度、高度)や肝硬変に至っているか否かを推定しています。

・GOT(AST)、GPT(ALT)
正常値は、検査法により多少異なりますが、正常値は30単位以下です。慢性肝炎ではGPT値が GOT値より高くなります。これらの値は、脂肪肝やアルコール性肝障害など、慢性肝炎以外の肝臓病でも高くなります。したがって、異常な値がみられたときには、精密検査が必要です。

・血小板数
正常値は 20万以上です。肝臓の線維化が進むにつれて、血小板数は減少していきます。肝生検をしなくても血小板数で線維化の状態がある程度わかります。この値が10万以下の場合は、肝硬変の可能性が極めて高いといえます。GOT、GPTの値により肝臓の炎症の程度がわかりますが、血小板数からは、「どの程度病気が進んでいるのか」、「どのくらい肝硬変に近いか」、がある程度推察できます。

・超音波検査(腹部エコー)
超音波により、肝臓の中まで観察することができます。慢性肝炎か否かの判断あるいは慢性肝炎と脂肪肝を区別するのに有用な検査です。また、脾臓が大きい場合は、線維化が進んでいる可能性があります。直径1cm未満のがんでも発見でき、腫瘍(がん)の診断に大変有用です。

・肝生検
体の外から肝臓に向かって長い針を刺して肝の一部を採取します。刺した場所からの出血を予防するために、検査後は安静にする必要があります。したがって患者さんには入院をしていただきます。肝生検は、診断を確定したり、病気の程度(炎症の程度や線維化の
程度)、脂肪肝の有無、鉄の蓄積の有無(特にC型肝炎の場合)や治療の効果を判定するのに大切な検査です。

診断方法

まずB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスに感染しているかどうかをHBs抗原とHCV抗体で調べます。免疫の担い手であるリンパ球が作るγグロブリン(lgG)の値が著明に高い場合は、自己免疫性肝炎を考え、免疫の異常の有無(自己抗体検査)を調べる検査を行います。

・B型肝炎ウイルス
血液中の HBs抗原が陽性の場合は、血液中にB型肝炎ウイルスが存在すると考えられます。さらに、HBe抗原が陽性の場合はウイルスの量が多く、HBe抗体が陽性の場合はウイルスの量が少ないと考えられますが、これには例外もあります。血液中のウイルス量は HBV-DNA量を測定すればわかります。

・C型肝炎ウイルス
血液中のHCV抗体が陽性の場合は、C型肝炎ウイルスに感染している可能性が高いと考えられます。さらに、HCV-RNAを測定し、陽性であれば、血液中にC型肝炎ウイルスが存在します。HCV抗体が陽性の人で、GOT、GPT値が異常である場合は95%以上、正常の場合でも70~80%に、HCV-RNAが陽性です。また血液中のウイルスの量(HCV-RNA量)やウイルスの型を調べることも大切です。

・自己免疫性肝炎
血液中に抗核抗体(ANA)あるいは抗平滑筋抗体(ASMA)という、自分の細胞の一部を異物とみなす自己抗体が存在し、lgGの濃度が正常上限値の1.1倍以上の場合に、自己免疫性肝炎が疑われます。まずは他の原因による肝障害の除外が診断の出発点となります。

治療

B型およびC型慢性肝炎の治療では、肝炎ウイルスに対する薬物療法が最も重要です。B型慢性肝炎の抗ウイルス療法の治療法は、大きくは、ペグインターフェロン(Peg-IFN)治療と内服の抗ウイルス薬である核酸アナログ製剤(ラミブジン、アデホビル、エンテカビル、テノホビルの5種類がありますが、副作用と薬剤耐性の出現率からは、現在ではエンテカビル、テノホビルが選択肢となります)による治療に大別されます。一方、B型肝硬変の治療薬剤としてPeg-IFNは保険適用がなく、核酸アナログ製剤を処方します。C型肝炎に対する抗ウイルス治療は、ゲノタイプを問わず、初回治療・再治療とも直接作用型抗ウイルス薬(DAAs)併用によるインターフェロンフリー治療が推奨されています。またC型肝炎では2019年1月8日に非代償性肝硬変、および直接作用型抗ウイルス薬(DAAs)治療不成功例に対するソホスブビル/ベルパタスビルが認可されました。B型肝炎ウイルスに対する抗ウイルス薬は、肝臓のウイルス量を減少させる効果があります。HBe抗原陽性から HBe抗体陽性にかわることを、“セロコンバージョン”といいますが、HBe抗原陽性の患者さんを治療して“セロコンバージョン”させることができると、ウイルスが駆除されなくても、GOT、GPTの値が正常化する可能性が高くなります。核酸アナログ登場で B型肝炎治療は大きく進歩しました。C型慢性肝炎の治療では、ウイルスを肝臓から排除することが重要です。駆除に成功すれば、肝硬変への進展が抑えられるだけでなく、肝の線維化の改善もみられ、その結果、肝がんの発生も大きく(10分の
1程度に)減少します。抗ウイルス薬が効かない場合には、肝庇護療法(強力カネオミノファーゲンC、ウルソ)を行います。これらの薬や治療により肝細胞の破壊が軽減され、
GOT、GPT値が低下すると、肝硬変へと進むスピードはゆっくりとなり、肝細胞癌の発生も先延ばしにできます。自己免疫性肝炎の場合は、免疫の力を抑えるために副腎皮質ステロイドを使います。これにより、ほとんどの患者さんでGOT、GPT値は正常化します。

日常生活での注意点

  • ウイルス性慢性肝炎の患者さんがお酒を飲むと、肝癌ができる確率が高くなるという報告があります。飲酒を避けることが、病気を悪化させないために重要です。
  • 肝発癌の危険因子としては肝炎ウイルスなどによる慢性的な肝障害がもっとも重要です。喫煙の肝発癌への影響は完全には否定できないと思われます。
  • 食事について特別に注意する必要はありませんが、栄養のバランスを考えた食事を規則正しくとることが大切です。肝臓に鉄が多くたまっている人は鉄分の多い食事はひかえることが大切です。
  • 軽い運動や散歩は構いません。そのために病気が悪化することはありません。

肝炎ウイルスの感染と予防について

B型および C型肝炎ウイルスが感染する可能性があるのは、ウイルスを含んだ血液が体内に入った場合だけです。輸血する血液は、ウイルス検査を行っているので感染の危険性はほとんどありません。歯ブラシやひげそりなどは血液が付着する可能性があるので、他人と共有することは避けるべきです。B型肝炎ウイルスについては、血液中のウイルス量が多い患者さんの唾液など体液中にもウイルスが認められるという報告もありますが、血液に汚染されていなければ感染しないと考えて良いでしょう。食器を別にする必要はありません。性交渉による感染は起こりますが(C型では少ない)、これは、粘膜を介して血液が体内に入るためと考えられます。C型肝炎ウイルスでは、一般に血液中のウイルス量が少なく、
日常生活で感染する危険性はほとんどありません。B型肝炎ウイルスの感染はワクチンで予防できます。感染する可能性のある人は、医師に相談し、ワクチンを受けるかどうかを決めてください。C型肝炎ウイルスには有効な予防法はありません。B型肝炎ウイルスは、出産に際してしばしば母親 から子供に感染(母児感染)します。予防することができるので、ウイルスに感染している妊婦は、担当医と十分に相談しておく必要があります。C型肝炎ウイルスの母児感染も時にみられ、出産に際しては専門医に相談してください。

どのような慢性肝炎から肝癌が発生しやすいか

慢性肝炎は、肝臓障害の程度(ステージ)、すなわち線維化の程度により、F1(軽度)、F2(中等度)、F3(高度)、肝硬変に至ると F4と分類されます。C型慢性肝炎では、今後
10年間に肝がんが発生する確率は、ステージにより5%未満(F1)から 70%(F4)と大きく異なります。正確なステージは肝生検をしないとわかりませんが、血小板数が18万前後はF1、13万以下になるとF3または F4であると推定されます。B型慢性肝炎も肝硬変になると 10年間で約 30%肝がんを発生するとされています。しかし、B型ではC型慢性肝炎に比べて、線維化の進んでいない肝臓にも癌ができやすいので、注意する必要があります。

肝癌を早く見つけるために

肝臓に癌ができると、血液中のAFP、AFP-L3分画、PIVKAⅡの値が高くなることがあります。これらは、腫瘍マーカーと呼ばれ、肝がんの早期発見に役立ちます。慢性肝炎、特にC型慢性肝炎の患者さんで、血小板数が13万以下に減少した場合は肝癌発生の危険性が高くなり、これらの腫瘍マーカーの測定と超音波検査やCT検査を年に3~4回行なうのが望ましいでしょう。CT検査では、血液の流れを写しだす薬を注射して、その異常から小さな肝癌も見つけることもできます。肝の線維化が進んだ状態、あるいは肝硬変ではCTやMRI検査も行わせて行うとよいでしょう。肝癌は、早期に見つけて治療を行うことが重要です。新しい治療法も次々と開発されています。